ここでは当社の開発した過酢酸を用いた最新の微生物除染法、過酢酸サイクル除染について解説します。
過酢酸による空間微生物除染
低濃度過酢酸は強力な除染効果と人に対する安全性を兼ね備えた薬剤として、クリーンルームなどの実験施設の空間及び表面除染に長年用いられてきました。
過酢酸を用いた空間微生物除染には、従来よりドライフォグ法(※1)が用いられてきましたが、①強い金属腐食性、②分解が早く効果を長時間維持出来ない、③強い酢酸臭が残る、などの課題があり、使いこなすのは難しい面がありました。
空間に噴霧した過酢酸は、ラジカルを発生して微生物を除染し、酢酸に分解されます(下図)。
従来の過酢酸ドライフォグ法
過酢酸には実用的な濃度計がありません。そこで従来のドライフォグ法では、空間容量に対して一定の薬剤を噴霧する定量法や、一定の湿度になったら噴霧を止めて維持する定湿度法が用いられてきました。しかし過酢酸は分解しやすく時間とともに除染効果のない酢酸と水になります。湿度は保たれていてもそれ以上の除染効果は期待できません。そこで最初により多くの過酢酸を噴霧することで高い効果を維持しようとしていました。高湿度で除染するため温度変化や温度分布によって結露が発生し、腐食や臭気のリスクがあります。
過酢酸サイクル除染という新しい方法
過酢酸サイクル除染では、除染中に除染効果のなくなった酢酸を含むガスを回収し、新たな過酢酸を噴霧するサイクルを何度も繰り返します。これにより除染する空間全体を常に過酢酸リッチ、ラジカルリッチな状態に保ちます。空間に初めから存在していた水蒸気も徐々に過酢酸に置き換えられます。
このため従来よりも低湿度でも高い除染効果を発揮し、結露のリスクを抑え、短時間で除染が可能となります。過酢酸サイクル除染は、過酢酸の課題を克服し、その安全性と能力を最大限に発揮する、次世代の空間除染法なのです。
※1ドライフォグ法:過酢酸を微細な粒子径を持つ液滴として噴霧することにより除染する方法。粒子径10~30μmの液滴は、硬質表面にあたっても跳ね返り表面を濡らさないためドライフォグ(濡れない霧)と呼ばれる。しかしドライフォグといえども、高湿度の環境で露点に達したり温度が低下したりすれば結露が発生し濡らしてしまうリスクがある。